■ 目標設定
動くことが大好きなこむぎちゃん。
家の中でも危険な事はたくさんあるため、お母さんは常にこむぎちゃんから目を離すことができず、自分の時間を取ることや、毎日の夕飯の支度さえも常に目線はこむぎちゃんにありました。
こむぎちゃんの大好きな音楽を使って集中できるものがあったら嬉しいというお母さんの声があり、
『お母さんの休憩できる時間を少しでも作れるように、集中して見ていられる、聴いていられる、そして楽しんでもらえるものを作成する』を研究課題としました。
■ 課題にどう取り組んだか?
集中して見られるものということで、まずはこむぎちゃんの好きなテレビ番組や、歌を伺い、ひとつの動画を作成することにしました。
初期動画は6分ほどの動画を作り、こむぎちゃんに見てもらい、お母さんから様子を教えていただいたり、見ている時の動画を撮っていただき、何に反応しているのか、何が一番楽しそうなのか、などを見たり聞いたりしながら次に何をするべきなのかを考えました。
全編私一人で動画を続けるのは飽きてしまうだろうと思い、他のメンバーにも協力をしてもらい、画面の賑やかさに拘り、最終的に長編動画を作成しました。
動画の中には、手遊び歌、ハモリのある歌、こむぎちゃんへの呼びかけ、パペットの登場やダンスなど、たくさんの工夫を散りばめました。
■ 結果
お母さんにもこむぎちゃんにもとても喜んでもらえるものができたと思います。
興味のない動画だと画面を操作し消してしまっていたそうなのですが、今回の動画では画面を触ってしまうことなく、繰り返し楽しんでくれるといった変化が見られ、好きな音楽や聞いたことのある歌だと集中してくれることがわかりました。
こむぎちゃんが成長するにつれて感じ方はどんどん変わっていくと思うので、もちろん今回作成した動画でこむぎちゃんの集中がずっと続くわけではないと思いますが、今回の研究結果として、こむぎちゃんが集中して見てくれたり、真似をしてくれたり、一緒に歌って楽しんでくれた事、そしてお母さんが少しでも楽になる手助けができたことや、こむぎちゃんが楽しみ笑う、その笑顔の連鎖でお母さんの気持ちが晴れたことを含め、研究は成功だったのではないかと思います。
(報告者:武田桃子)
(親御さんの声)
■課題(研究を申し込んだ動機)
・娘が何かに集中して静かにしていられる時間が少しでも欲しかった。
(理由)コロナ禍となり、自宅で過ごす時間が長くなりました。娘は外で遊ぶのが大好きで、家ではおもちゃにも関心がなく一人で何かに集中して遊ぶことが得意ではありません。 また、娘はコロナの流行とほぼ同時に歩行ができるようになったこともあり、とにかく家の中を歩き回りじっとしていることがなく、視野が広がり行動範囲が広がった分、今まで安全と思っていた場所も安全でなくなり、寝ている時以外目を離せない毎日が続きました。重度知的障害の娘はどうして外に出られないのか理解できないため、突然変わった生活にストレスを感じ、泣いたり叫んだりすることも増えていき、そんな姿を見ていて私も心身が疲れていきました。「30分でもいいから目を離していられる時間が欲しい・・・」「娘が楽しい!と感じられる時間を増やしたい」、そんな思いで研究を申し込みました。
娘は音楽が大好きです。ですが娘の場合、音楽を聴きながらその場で歌ったり踊ったりできれば良いのですが、音楽を聴くと楽しくなってしまって余計にその場に留まっていられなくなったり、知らない曲が続けばあきてどこかに行ってしまいます。その為、音楽でありながら動画で惹きつけらえるものがあったら、楽しみながら静かにしていられるかもしれないと考えました。
動画制作にあたっては、どうやったら30分近く集中して見ていられるか、娘の好み・性格・特性等をシェアさせて頂きながら進めていくこととなりました。娘の場合、音楽であっても単調なものだと飽きてしまうのは明確だったので、動画の中に様々なアイデアを取り入れて下さいました。
・好きな曲、知っている曲(童謡、手遊び歌)
・テンポや曲調の変化・娘の名前を呼んでもらったり、対話できるような語りがけ
・視覚優位なところがあるので、終始動いているものが目に入るように画面をにぎやかに(イラスト、文字、パペット、複数人出演)
・模倣が得意なので、振付けあり
・楽しめる手遊び歌と、聴き入ることのできる童謡などの切り替え
・子供番組に出てくるような、歌のお姉さんのイメージ等々、完成された動画には様々な要素が入った作品となりました。
■結果
・とても嬉しそうに楽しんでいます。
・その時の気分で、自分なりに楽しみ方を変えています。
・じっと静かに画面を見入っている。
・画面を見ながら動いて振付けを真似したり、一緒に手遊びをしたり、歌ったり。
・画面は見ていなくても、音や雰囲気は感じていて、お気に入りの場所で体をゆらしたり、手遊びをしたり歌ったり。
・Ipadを床に置く/Ipadを壁にかける/プロジェクターで見せる等、見せ方を変えると楽しみ方も変わるようです。
・画面の見える距離にいられる(部屋から脱走することがありません)
・見せるたびに、振付けに変化があり、真似する動作が増えました。
・語りかけに対して、手を振ったり、挨拶したり、対話しています。
・画面のイラストに「犬」「猫」と指さししたり、お花のイラストでお花のしぐさをしたり、画面に注目して認識しているものが出てきました。
・馴染みのうすい曲になると、最初はあまり興味を示してないのかなと感じましたが、何気なく見てるようで、何度も見せているうちに手拍子や踊りが出てきました。
・3回連続はあきてしまうようです。
・今回は娘が知っている好きな曲ばかりを選曲して頂きましたが、知らない曲でも興味を持って楽しんでくれたらと思います。
生だと知らない曲でも比較的楽しめるのですが、オンラインだと雰囲気を感じづらいせいか、難しさを感じることが多いです。
・成長に応じて、興味関心やブームが変わってくるので、長期間楽しく集中できるかは要観察です。
私(母)は、
・部屋から脱走しないで楽しんでくれるものができて、とても有難いです。
・じっとしていて欲しいときに見せたり、日常生活の手助けになりました。
・娘が嬉しそうな表情をしたり、楽しそうにしている姿を見られることが嬉しいです。
・動画と共に娘の成長や変化を感じることができるというのは嬉しいです。
・娘の特性に合わせた動画にすることで、こんなに集中力や楽しみ方が変わるということが知れて感動しています。
「ゴールドマン・サックス緊急子ども支援基金(第2フェーズ)」助成です
期間 2020年11月-2021年3月
■ 研究メンバー
寺田真実、有永美奈子、岩本潤子、武田桃子、一色有希子、野村仁美、高橋由衣子
■ 内容
1,眠りを促す為の音楽パフォーマンス
2,お母さんの休息時間を作る為の、集中して見れる・聴ける・楽しめるパフォーマンス制作
3,眠れる安心感を得る為の、入院中の睡眠音楽の制作
4,自宅以外でリラックスできる為のプログラム作り
5,「私もなれる・できる!」喜びを知る為のパフォーマンス制作
6,自分の表現方法をみつける為のプログラム作り
7,「ごはんの時間が楽しい」と思える為のプログラム作り